ケッヘル

まるでラドラムの謀略小説の如し。先入観との違いの大きさに驚いた。冒頭こそ海外恋愛ものの趣きだったが、それはあくまでも装いで話が救いのない方向へどんどん小さく細かくしつこくなっていくのだ。視点がトリストラム・シャンディ化してからさらにこだわりや執拗さは加速し、全体としては『竜馬伝』を凌駕するような一大伝奇大河小説を期待させる展開になり、読みごたえ十二分。
上下二巻、上巻が特に面白い。下巻は上巻を超えるには至らず、やや落ちる。これはトリストラム・シャンディの視点が種明かしの視点なので退場させたためなので仕方がない。

ケッヘル 上 (文春文庫)

ケッヘル 上 (文春文庫)

ケッヘル 下 (文春文庫)

ケッヘル 下 (文春文庫)

獣の奏者』の著者同様、この著者の筆力と想像力は希有だ。まったく知らずにいてごめんなさい。びっくりしました。

第5位というよりは第1位か別格の風格があります。

次は、第6位『麗しのオルタンス』を読みます。

麗しのオルタンス (創元推理文庫)

麗しのオルタンス (創元推理文庫)