中村真一郎「小さな噴水の思い出」(筑摩書房

第6章の題は「めでたい正月」

筆者の必ずしもめでたくはなかった幼少から青年期、さらに壮年期を振り返りながら七十代に達したその時の「今」の自分をやや誇らしげに語っている。

「私のまわりに集まってくるのは、新しい仕事の夢の群である。」

最後まで仕上げるべき作品の夢想と構想に耽っていたという筆者の若々しい精神が感じられる。

「新年早々、近代作家の冗舌な言葉の氾濫は、もう中年過ぎた私にはわずらわしい。ラテン語の簡潔な後の配置が、精神に快いのである。」

筆者が本や読書について語る部分は特に生き生きとしている。