中村真一郎の文章は無駄がなく、どこをとっても考え抜かれた鋭い文章である。

「小さな噴水の思い出」(筑摩書房)の第2章の題は「人間性回復の時代に」である。

「あと十年足らずで始まる新しい世紀は、ぜひ人間に人間性を回復するための時代となってほしいと思う。それまでの十年のあいだ、個人は小さいともしびを、それぞれの心のなかにともして、世界の激しい風のなかに光りを守りつづけたいものだ。」

 純粋かつ純真な文学者は浮世離れした生活を送っていると思いがちだが、全くそれは間違いの極みである。
 鋭い批評眼・意識的かつ強靱な精神が日本を含めた世界の動きを見つめていた。