北の人名録

巻頭詩と冒頭の「北海ヘソ縁起」を読んで中断。単行本が出たのは三十年ほど前。よく読まれたはず。今回文庫本になってずいぶん遅い復活。面白いものは今でも面白い。著者独特の語り口が楽しい。

北の人名録 (新潮文庫)

北の人名録 (新潮文庫)

麗しのオルタンス

ジャック・ルーボー『麗しのオルタンス』は饒舌小説の元祖たる『トリストラム・シャンディ』と似ている。異なるのは計算されたおしゃべりであること。気がつくと聞きほれている。主人公はノーパン美女オルタンスなのかすべてを知る猫ウラディミロヴィッチなのか。

麗しのオルタンス (創元推理文庫)

麗しのオルタンス (創元推理文庫)

これが本の雑誌が選ぶ文庫ベスト10の第6位。
第7位の新城カズマ『15×24』と8位の高田郁『八朔の雪』は先に読み終わってしまった。両作品とも続編があるので是非読みたい。
第9位の倉本聰『北の人名録』はかつての単行本時代に一度読んでいるのでどうしようかな、だったがせっかくの文庫化だからもう一度読んでみようと思う。
第10位の藤田香織『だらしな日記』は、だからもう少し後になりそう。
八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)

八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)

花散らしの雨 みをつくし料理帖

花散らしの雨 みをつくし料理帖

北の人名録 (新潮文庫)

北の人名録 (新潮文庫)

2010年1月の読書記録

1月の読書メーター
読んだ本の数:41冊
読んだページ数:10864ページ

22歳からの国語力 (講談社現代新書 2035)22歳からの国語力 (講談社現代新書 2035)
22歳でなくともいいともの国語力自己養成のすすめとそのヒント集。前著2冊の整理整頓版でとてもいい感じ。
読了日:01月31日 著者:川辺 秀美
自分だけの一冊―北村薫のアンソロジー教室 (新潮新書)自分だけの一冊―北村薫のアンソロジー教室 (新潮新書)
読書の初心というような懐かしいところへたちかえり感慨深い。著者独特の世界は本を読む人すべてにも通じる。薄い本だが熱い本。
読了日:01月30日 著者:北村 薫
火の闇 飴売り三左事件帖火の闇 飴売り三左事件帖
『夏の椿』の著者の遺作となった連作短編集。「観音のお辰」「唐辛子売り宗次」「鳥笛の了五」「佛のお円」「火の闇」の全5編。いずれも人物が印象的でさらに主人公の三左が人の魂の領域まで斟酌できる意外に感受性の豊かな人物であることが記憶に残る。
読了日:01月30日 著者:北重人
日本語の学校 声に出して読む〈言葉の豊かさ〉 (平凡社新書 463)日本語の学校 声に出して読む〈言葉の豊かさ〉 (平凡社新書 463)
朗読の仕方を通して文章の読み方を教えてくれる。地味だが画期的な内容。
読了日:01月29日 著者:鴨下 信一
よろこびの歌よろこびの歌
人間讃歌が隅々にまで行き届いている、とてもかわいらしい物語。語り手がリレー方式につながり結びついていく、その先に光が見える。
読了日:01月28日 著者:宮下 奈都
八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)
澪、種市、小松原、芳、源斉、お了、太一、伊佐三、又次、あさひ太夫(野江)と覚えていたい名前がずいぶんある。時代小説なら剣豪という思い込みを見事に打ち破ってくれた面白くて楽しくて感動的な物語。つらい思いが絶えない主人公には気の毒だが実にうれしい。
読了日:01月27日 著者:高田 郁
鷺と雪鷺と雪
真ん中の「獅子と地下鉄」での英子の危機一髪が象徴しているように「不在の父」も「鷺と雪」も前作以上に感極まるサプライズが用意されていた。
読了日:01月26日 著者:北村 薫
見た目の若さは、腸年齢で決まる (PHPサイエンス・ワールド新書)見た目の若さは、腸年齢で決まる (PHPサイエンス・ワールド新書)
第7章「うんち力を鍛える」がとても具体的ですぐにでも実践できる。本の題名もその方が良かった。または、「うんち教室」か「うんちを作る」が良かった。惜しい。
読了日:01月25日 著者:辨野 義己
本棚〈2〉本棚〈2〉
「本はすごい処分してますよ」なのに都築響一さんの本棚が迫力あり。これは凄い。
読了日:01月24日 著者:
再生―密命・恐山地吹雪〈巻之二十二〉 (祥伝社文庫 さ 6-47)再生―密命・恐山地吹雪〈巻之二十二〉 (祥伝社文庫 さ 6-47)
数ある見せ場の中で毎回心に響くものがあるのは道場での手合わせの場面。清之助がいつも圧倒的な大差で勝つのだが飽きない。今回清之助は恐山、桂次郎は聖地・出羽三山と別々だが相似形のように動いた。次は協力して大きな陰謀に向かうのでは。次巻は上下巻であってほしい。
読了日:01月24日 著者:佐伯 泰英
本棚本棚
「平成になってから買ったもの」という喜国雅彦さんの探偵小説棚に迫力あり。15人の本棚集。
読了日:01月24日 著者:
メアリー‐ケイト (ハヤカワ・ミステリ文庫)メアリー‐ケイト (ハヤカワ・ミステリ文庫)
時ならぬSF(風)サスペンス。どんなビックリか大いに期待しながら読めた。その意味で夢あふるる理想的な導入と展開。この結末でさらに三人の話がシリーズとして続いているならもっと破天荒なのか。
読了日:01月23日 著者:ドゥエイン スウィアジンスキー
声のトレーニング (岩波ジュニア新書 (520))声のトレーニング (岩波ジュニア新書 (520))
わかりやすく読みやすい。特に発音トレーニングの章が楽しい。個々の文例が面白い。
読了日:01月23日 著者:福島 英
インビジブルレインインビジブルレイン
牧田という大器を得て新展開かと思いきやあっと言う間に退場して、残念。次の巻から姫川の真のドラマが始まるのか、と期待大。
読了日:01月21日 著者:誉田 哲也
語学はやり直せる! (角川oneテーマ21 (B-106))語学はやり直せる! (角川oneテーマ21 (B-106))
とても大胆な発想の著者による語学随筆集。一つの言語の習得にこだわって苦労することが愚かに思えてくる、明るい本。
読了日:01月20日 著者:黒田 龍之助
ぼくらの言葉塾ぼくらの言葉塾
「少年少女のための言葉アンソロジー」で著者お気に入りの詩人や詩歌、言葉が若々しいタッチで紹介されてゆく。「正確な言葉」に感心し『リンダリンダリンダ』を聴きたくなり、ついにはまどみちおさんの詩を読みたくなった。
読了日:01月19日 著者:ねじめ 正一
野うさぎ物語 (角川文庫)野うさぎ物語 (角川文庫)
野うさぎの希有な昇天の模様を描いた散文詩など。安東次男さんが翻訳している。
読了日:01月18日 著者:フランシス・ジャム
地アタマを鍛える知的勉強法 (講談社現代新書 2027)地アタマを鍛える知的勉強法 (講談社現代新書 2027)
この本の読者が「自在に勉強法をアレンジできるようになる」ために著者は蘊蓄のすべてを惜しみなく公開。第四章「実力がワンランクアップするヒント集」が具体的開陳集。
読了日:01月17日 著者:齋藤 孝
日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で
「日本の国語教育は日本近代文学を読み継がせるのに主眼を置くべきである。」という意見が印象に残る。急速にそれが難しくなりつつあるが、まだ遅くはないはず。
読了日:01月17日 著者:水村 美苗
脱力の人脱力の人
天野忠、和田久太郎、尾形亀之助、淵上毛銭、鈴木しづ子、辻まことつげ義春。七人を脱力の人として紹介、照会。詳解に近い紹介。著者の青春時代の紹介でもある。脱力紹介になっていないのは、辻まことつげ義春の部分。
読了日:01月16日 著者:正津 勉
荒川洋治詩集 (1978年) (新鋭詩人シリーズ〈2〉)荒川洋治詩集 (1978年) (新鋭詩人シリーズ〈2〉)
「娼婦論」「水駅」「鎮西」の3詩集を収めたもの。すでに高見順を話題にしている。
読了日:01月16日 著者:荒川 洋治
日本のルールは間違いだらけ (講談社現代新書)日本のルールは間違いだらけ (講談社現代新書)
性風俗から日本語、共産党、鉄道まで幅広く日本のルールにツッコミを入れる痛快というか哀しいというか大胆な一石。
読了日:01月16日 著者:たくき よしみつ
なぜ、江戸の庶民は時間に正確だったのか? 時代考証でみる江戸モノ65の謎(じっぴコンパクト) (じっぴコンパクト) (じっぴコンパクト)なぜ、江戸の庶民は時間に正確だったのか? 時代考証でみる江戸モノ65の謎(じっぴコンパクト) (じっぴコンパクト) (じっぴコンパクト)
とても読みやすい江戸時代の説明書。時代小説を読むわりには何も知らないので読んだ。
読了日:01月15日 著者:山田 順子
日本の「食」は安すぎる―「無添加」で「日持ちする弁当」はあり得ない (講談社プラスアルファ新書)日本の「食」は安すぎる―「無添加」で「日持ちする弁当」はあり得ない (講談社プラスアルファ新書)
「サイエンス・トーク」で著者の明快な声を聴き興味を持って読んだ。安全性と適正価格、買い支えるなど新たな視点に納得した。
読了日:01月15日 著者:山本 謙治
簒奪―奥右筆秘帳 (講談社文庫)簒奪―奥右筆秘帳 (講談社文庫)
柊衛悟、冥府防人それぞれの戦いに鬼気せまるものがあり、堪能。しかし、甲賀と残地衆はあまりに悲惨。どうにかならぬものか。
読了日:01月13日 著者:上田 秀人
御免状始末 - 闕所物奉行 裏帳合(一) (中公文庫)御免状始末 - 闕所物奉行 裏帳合(一) (中公文庫)
あの「妖怪」が後ろ楯という主人公の設定が愉快。この関係を深く掘り下げるととんでもない代物になりそうだ。
読了日:01月12日 著者:上田 秀人
ケッヘル〈下〉ケッヘル〈下〉
福永武彦の小説のようには終わらなかったが、十分にその世界の街や場所を彷徨し、堪能した。
読了日:01月12日 著者:中山 可穂
ケッヘル〈上〉ケッヘル〈上〉
凄い。倒錯恋愛小説家とは全く違うではないか。勝手な先入観で回避していたが凄い作家だ。こんな見事な立派な力量の語り部がいたのだ。冒険小説、伝奇小説、音楽小説、恋愛小説、旅行小説、奇想小説、逃亡小説、ミステリー、とにかく骨太の徹底した物語。思わず『獣の奏者』と比べた。下巻はいったいどこまで行ってどうなるの。
読了日:01月11日 著者:中山 可穂
黎明の剣―討たせ屋喜兵衛 (時代小説文庫)黎明の剣―討たせ屋喜兵衛 (時代小説文庫)
五部作見事に完結。秘剣「鳴神」が最後に出て納得。
読了日:01月11日 著者:中里 融司
ソウル・コレクターソウル・コレクター
相変わらず恐い。誰かの死は物語として必然だが、リアルに直面するという描き方がうますぎるの恐い。スリルとサスペンスが利き過ぎだ。このシリーズは過剰に不安になる。最後の最後まで最後の一行まで何かが起きるのではと落ち着かない。読みたいけれど読むのを遅らせたくなるくらいクール。ただ476ページ下段15行目で緊張がほどけた。
読了日:01月10日 著者:ジェフリー・ディーヴァー
討たせ屋喜兵衛 秘剣陽炎 (時代小説文庫)討たせ屋喜兵衛 秘剣陽炎 (時代小説文庫)
次の4作目には負けるが驚くべき活力の仇が登場して盛り上がる。濡れ場があるので万人向けとは云いかねるがもちろん傑作。
読了日:01月09日 著者:中里 融司
玻璃の天 (文春文庫)玻璃の天 (文春文庫)
スケールアップし、さらに深みが増した。連作もののお手本。平成初期と昭和初期、ずいぶんとかけ離れているようで実は似ている。
読了日:01月08日 著者:北村 薫
浪士討ち入り―討たせ屋喜兵衛 (時代小説文庫)浪士討ち入り―討たせ屋喜兵衛 (時代小説文庫)
今作も完璧。全体と細部のバランスがよく、全く妥協していない渾身のシリーズだ。赤穂浪士の話がこうなるとは。このあとの趣向が楽しみ。
読了日:01月07日 著者:中里 融司
文学の門文学の門
新たな活力を甦らせてくれる、読むことについての本。新たな基本図書の一冊。
読了日:01月06日 著者:荒川 洋治
討たせ屋喜兵衛 秘剣稲妻 (ハルキ文庫―時代小説文庫)討たせ屋喜兵衛 秘剣稲妻 (ハルキ文庫―時代小説文庫)
シリーズ第2作も完璧。本家の「桃太郎侍」以上に面白い。
読了日:01月05日 著者:中里 融司
身の上話身の上話
『このミス』で21位以下が信じられない大傑作。現代日本版『罪と罰』蛇。間違いなく歴史に残る犯罪ミステリー。
読了日:01月05日 著者:佐藤正午
転移転移
思い出したことが二つ。グイン・シリーズ開幕のウキウキ感。『アルジャーノンに花束を』の衝撃。
読了日:01月05日 著者:中島 梓
15×24 link one せめて明日まで、と彼女は言った (集英社スーパーダッシュ文庫 し 5-1)15×24 link one せめて明日まで、と彼女は言った (集英社スーパーダッシュ文庫 し 5-1)
全編若者おしゃべり独白風ドミノ小説。「死」を語るのは難しいけれど、プロローグとしてはこの程度の軽さでよい。
読了日:01月05日 著者:新城 カズマ
凸凹デイズ凸凹デイズ
一見奔放な醐宮純子を核に語り手の凪海と大滝、そして黒川、磐井田の右往左往する青春をスタイリッシュかつポップ風に描ききった面白本。
読了日:01月04日 著者:山本 幸久
新宿遊牧民新宿遊牧民
忘れた頃に出てくる報告小説が今回は大河小説の趣向で登場。悠々たるペースで書き綴られている。人物列伝で最も光彩を放つのは食のヒロシ。著者との初遭遇場面は抱腹絶倒。
読了日:01月04日 著者:椎名 誠
D-魔道衆 吸血鬼ハンター19D-魔道衆 吸血鬼ハンター19
超久々の「D」の面白さは不変。いつもの文章でひたすらの痛快大風呂敷。
読了日:01月03日 著者:菊地 秀行

読書メーター

麗しのオルタンヌ

まだ読んでいない『麗しのオルタンヌ』について。
開幕は、夏、朝の八時、エウセビオス食料品店の開店とともに。
朝のグロリア牛乳を木箱の上で待つアレクサンドル・ウラデヴィッチとともに。
筆者ジャック・ルーボー自らが口を開き、小説の語り手が複数であることを読者に告げつつ。
いともゆったりとこの小説は、ページをめくらせてゆく。
しかし、まだ二ページ読んだまま中断中。

ケッヘル

まるでラドラムの謀略小説の如し。先入観との違いの大きさに驚いた。冒頭こそ海外恋愛ものの趣きだったが、それはあくまでも装いで話が救いのない方向へどんどん小さく細かくしつこくなっていくのだ。視点がトリストラム・シャンディ化してからさらにこだわりや執拗さは加速し、全体としては『竜馬伝』を凌駕するような一大伝奇大河小説を期待させる展開になり、読みごたえ十二分。
上下二巻、上巻が特に面白い。下巻は上巻を超えるには至らず、やや落ちる。これはトリストラム・シャンディの視点が種明かしの視点なので退場させたためなので仕方がない。

ケッヘル 上 (文春文庫)

ケッヘル 上 (文春文庫)

ケッヘル 下 (文春文庫)

ケッヘル 下 (文春文庫)

獣の奏者』の著者同様、この著者の筆力と想像力は希有だ。まったく知らずにいてごめんなさい。びっくりしました。

第5位というよりは第1位か別格の風格があります。

次は、第6位『麗しのオルタンス』を読みます。

麗しのオルタンス (創元推理文庫)

麗しのオルタンス (創元推理文庫)

『書票』2010.1月号

「書票」は「ほんのしるべ」と読むのですね。ジュンク堂書店でいただきました。
発行もジュンク堂書店でした。
特集は「個人全集を読む」でうまいところを衝いています。
「著書を語る」欄はリチャード・フイライシャーです(が)。

さて『ケッヘル』は順調に読み進められる魅力ある小説なのですが、邪魔が何度も入って中断、再開、中断、再開してすぐに中断で、結局長い中断中に突入しています。異邦での奇妙な出会い、猫との奇妙な邂逅、過去との遭遇を練れた文章で飽かすことなく見事に描ききっているのでその世界観から離れがたいのに、今は結構遠ざかってしまいました。

ケッヘル〈上〉

ケッヘル〈上〉

単行本の表紙です。

凸凹デイズ

最後の一文が見事に決まった。読後感のよい青春小説というふんいきで終わった。
一人称は凪海と大滝限定だった。そのおかげかあまり混乱せずに読み終わることができた。
話の核にいる奔放な醐宮純子に周囲の者が振り回され右往左往する展開の中で今回は凪海と大滝の視点を採用してのドタバタ風なつかし青春コメディになった。
醐宮という名前が不思議だが、ほかが黒川、大滝、凪海、磐井田というふうに川、滝、海、井と水関係になっているのも何か意味ありげで不思議だった。
第1位、2位、4位とすべて一人称のためか話が軽いといえば軽いし、痛快といえば痛快な本ばかりだった。

凸凹デイズ (文春文庫 や 42-1)

凸凹デイズ (文春文庫 や 42-1)

次は5位の『ケッヘル』を読む。
ケッヘル 上 (文春文庫)

ケッヘル 上 (文春文庫)